医師数データの正しい読み方 — 「医師が多い街」1位が岩手県の町である理由
「医師が多い街」と聞いて思い浮かぶのは東京や大阪かもしれません。しかし人口10万人当たりの医師数の全国1位は、岩手県矢巾町 — 人口約2.8万人の町で、その値は約2,010人。全国中央値の10倍近い数字です。この記事では、この「意外な1位」を入り口に、医療データの読み方を説明します。
なぜ矢巾町が1位なのか
答えは単純で、2019年に岩手医科大学の附属病院(約1,000床)が盛岡市から矢巾町に移転したからです。大学病院には非常に多くの医師が勤務します。それが人口2.8万人の町にあるため、「人口10万人当たり」に換算すると桁外れの値になります。
これはデータの誤りではなく、人口当たり指標の性質です。分子(医師数)が一つの大きな施設で決まり、分母(人口)が小さいと、値は極端に振れます。同じ理屈で、大学病院や基幹病院を抱える小さな町は軒並み上位に入ります。
医療は「市区町村の境界」で完結しない
もう一つ大事なのは、医療の生活圏は行政の境界と一致しないことです。矢巾町の病院は盛岡市民も使いますし、東京の都心3区(千代田・中央・港)の医療機関は周辺区の住民の受け皿でもあります。当サイトの医療・福祉スコアで都心3区が全国1〜3位を独占しているのは事実ですが、それは「その区に住まないと良い医療を受けられない」という意味ではありません。
実務的には、市区町村単体の数値よりも「通える範囲に何があるか」で考えるのが正確です。当サイトの市区町村ページでは近隣自治体との比較表を用意しているので、周辺を含めて眺めることをおすすめします。
それでも人口当たり指標を使う理由
バイアスがあるなら実数で見ればよいかというと、そうでもありません。実数では人口の多い自治体が常に上位になり、「住民1人にとっての厚み」が見えなくなるからです。人口66万人の街の医師1,000人と、人口3万人の町の医師500人では、後者の方が住民にとっては手厚い環境です。
つまり実数と人口当たりはセットで見るのが正解です。当サイトでは医師数などの主要指標に総量(実数)を併記し、ランキングページでは人口当たり順と総数順を切り替えられるようにしています。
チェックリスト
- 人口の小さい自治体が医療系ランキング上位にいたら、大学病院・基幹病院の立地をまず疑う(多くはそれが答えです)
- 市区町村単体でなく、近隣を含めた圏域で医療の厚みを見る
- 人口当たりと実数の両方を確認する
- 高齢の家族と住むなら、医師数だけでなく介護施設数や介護保険料もあわせて見る